FSRS6.0は、「このカードを次にいつ復習するか」を回答履歴から決める仕組みです。Memlyでは、この仕組みを復習日の管理に使っています。思い出せたカードは間隔を広げ、忘れたカードは早めに確認するため、毎回すべてのカードを見直す必要がなくなります。
この記事では、まず学習者に関係する5つの特徴を説明し、その後に数式と性能比較を載せています。日々の使い方を知りたい方は、数式を覚える必要はありません。
FSRS6.0とは?機械学習で忘却曲線を個人化する間隔反復アルゴリズム
FSRS(Free Spaced Repetition Scheduler)は、機械学習と認知科学の知見を組み合わせたオープンソースの間隔反復アルゴリズムです。間隔反復とは、復習の間隔を少しずつ広げながら、忘れかけたタイミングで思い出すことで記憶を定着させる学習法を指します。この記事では、Memlyが採用するFSRS6.0を説明します。公式ベンチマークでは、後続バージョンのFSRS-7も公開されています。
開発背景:なぜFSRSが生まれたのか
従来のSM-2アルゴリズム(1987年開発)は、40年近く多くの学習アプリで使われてきました。ただしSM-2は固定の計算式で間隔を決めるため、利用者ごとに忘れ方が違うという事実を反映できません。SM-2との詳細比較は「Memly vs Anki徹底比較」をご覧ください。
FSRSは、Jarrett Ye氏(MaiMemo Inc.所属)によって開発され、最新の機械学習技術と、17億件以上の復習データから得られた知見を組み合わせることで、飛躍的な性能向上を実現しました。
FSRS6.0の5つの特徴
1. 個人ごとの忘却曲線に合わせる
忘却曲線は、時間がたつとどの程度思い出しにくくなるかを表します。FSRS6.0で追加されたw20は、この曲線の形を調整するための数値です。忘れる速さの違いを、復習日の予測に反映します。
- w20パラメータは0.1から0.8の範囲で調整可能
- ほとんどのユーザーでは0.2未満に最適化される
- 忘却曲線の形状をユーザーごとに変えられる
2. 同日に複数回復習したときの予測が改善
短期記憶から長期記憶へ移る過程をモデルに組み込みました。同じ日に2回、3回と繰り返したとき、どれだけ定着が進むかを見積もれます。次の復習日の計算が、その分ずれにくくなりました。
- w17とw18パラメータが成績の影響を制御
- w19が安定性の変化率を調整
- 復習時の自己評価「Good(普通に思い出せた)」「Easy(簡単だった)」では安定性が下がらないよう設計されている
3. 予測精度はSM-2比で99.6%のユーザーが改善
ベンチマークテストにおいて、FSRS6.0は従来のSM-2アルゴリズムと比較して、99.6%のユーザーでより優れた記憶予測精度を示しました。FSRS-5との比較でも88.2%のユーザーで改善が確認されています。
4. DSRモデルによる3次元記憶管理
DSRは、カードの記憶状態を3つの観点で表すモデルです。名前は、Difficulty(難易度)・Stability(安定性)・Retrievability(想起可能性)の頭文字です。
- 難易度: そのカードの覚えにくさを、1〜10の尺度で扱います。
- 安定性: 記憶がどれくらい長持ちするかを表します。モデル上では、思い出せる確率が90%になるまでの時間です。
- 想起可能性: 今、そのカードに答えられる確率の予測です。
5. 適応型パラメータ最適化
FSRS6.0は21個のパラメータを使い、学習者本人の復習履歴に合わせた調整ができます。パラメータは予測に使う数値のことです。実際にいつ、どのように調整するかは、採用するアプリの実装や設定によって異なります。
MemlyがFSRS6.0を選んだ理由
MemlyがFSRS6.0を使うのは、カードごとの回答履歴を復習日の計算に反映するためです。まだ覚えているカードの間隔を広げ、確認が必要なカードへ時間を使いやすくします。どれだけ復習時間が減るかは、教材の難しさや学習状況で変わります。
- 過学習の防止: 必要以上の復習を削減し、学習者の負担を軽減
- 最適タイミング: 忘却の直前に復習を配置し、記憶の定着を最大化
- 難易度調整: カードごとの最適な間隔を個別に計算
語学と資格試験での使用例
語学学習での使い方
英単語の復習では、次のように「復習日の管理」と「自分で行う練習」を分けます。
| カードの状態 | 復習日の管理 | 自分で行うこと |
|---|---|---|
| 自力で答えられた単語 | 回答結果を次の間隔へ反映 | 次回も答えを見る前に思い出す |
| 思い出せなかった単語 | 忘れた結果をもとに予定を調整 | 意味や例文を確認してから再挑戦する |
| 似た単語と混同するカード | それぞれの回答履歴を記録 | 違いが分かる例文や問いに直す |
同じカードで何度も迷うなら、回数を増やすだけでなく、覚えやすい問いへの直し方も確認してください。
資格試験対策での活用
司法試験や医師国家試験などの資格試験対策では、以下の点で特に効果を発揮します。
- 重要度に応じた保持率の差別化(憲法95%、商法85%など)
- 過去問パターンの効率的な暗記
- 直前期の総復習を最適化
科学的根拠となる忘却曲線モデルの進化
FSRS6.0は、約140年にわたる記憶研究の集大成です。間隔反復アプリの全体像は「スペースドリピティションアプリおすすめ5選」で比較しています。
| 年代 | モデル | アプローチ |
|---|---|---|
| 1885年 | エビングハウスの忘却曲線 | 指数関数モデル |
| 2022年 | FSRS v3 | 指数関数の改良 |
| 2023年 | FSRS v4-5 | べき関数への移行 |
| 2025年 | FSRS6.0 | 個人化可能なべき関数 |
140年のうち、曲線の形を人ごとに変えられるようになったのは最後の1行だけです。

FSRS6.0の数式は以下のように表されます。
R(t,S) = (1 + FACTOR x t/S)^DECAY式が表しているのは、「時間がたつほど思い出せる確率が下がるが、記憶が安定しているカードほど下がり方が緩やかになる」という関係です。
- tは、前回の復習からの経過日数です。
- Sは、そのカードの記憶の安定性です。
- R(t,S)は、その時点で思い出せる確率の予測です。
- DECAYとFACTORは、曲線の形を決める値です。DECAYはw20に基づき、FACTORはDECAYから求めます。
これらの値を手で計算する必要はありません。利用者が行うのは、答えを表示する前に思い出し、その結果を正直に評価することです。
ベンチマーク結果
20,000人のAnkiユーザーデータを使った検証結果です。ここで比べているのは、試験の点数や合格率ではなく、「思い出せるか」という予測の正確さです。
Log LossとRMSEは、どちらも予測と実際の回答のずれを測る指標で、小さいほど良い値です。右端の割合は、比較対象よりFSRS-6の予測が良かったユーザーの割合を示します。
| アルゴリズム | Log Loss(小さいほど良い) | RMSE(小さいほど良い) | FSRS-6が予測精度で上回ったユーザーの割合 |
|---|---|---|---|
| FSRS-6 | 0.30 | 0.052 | - |
| FSRS-5 | 0.33 | 0.058 | 88.2% |
| FSRS-4.5 | 0.34 | 0.061 | 92.1% |
| SM-2 | 0.41 | 0.089 | 99.6% |
FSRS-5との差は、Log Lossで0.03しかありません。大きく開いているのはSM-2との0.11のほうです。
よくある質問
FSRS6.0は本当に従来の方法より優れている?
この記事のベンチマークで比較しているのは、思い出せるかを予測する精度です。予測の改善は復習日を決める助けになりますが、同じ割合だけ成績が上がったり、全員の学習時間が減ったりすることを示すものではありません。
どのくらいのデータが必要?
初期のパラメータでも復習を始められます。本人の履歴が増えると個人に合わせるための情報が増えますが、必要件数や調整の条件はアプリによって異なります。まずは実際に思い出せたかを正直に記録してください。
短期間の詰め込み学習にも使える?
短い間隔の復習も扱えます。ただし、アプリの復習予定だけで試験対策全体が完成するわけではありません。試験範囲の確認や過去問演習を組み合わせ、利用できる場合は試験日の設定も確認してください。
まとめ:FSRS6.0で変わる復習スケジュール
FSRS6.0は、回答履歴からカードごとの記憶状態を予測し、復習日を決めます。予測の仕組みと、学習者が知識を使えるようになることは別です。内容を理解し、答えを見ずに思い出し、その結果を記録する練習と組み合わせて使います。
MemlyではFSRS6.0を復習スケジューラに組み込んでいるため、数式やパラメータを理解してから始める必要はありません。まずは数枚のカードで、回答結果に応じた復習を試してみてください。
AIによる暗記支援の全体像については「AIによる暗記支援とは?仕組み・効果・おすすめツールを徹底解説」で詳しく解説しています。
